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2022/02/06Person

他社にないメリットを求めた「遠赤グラファイトヒーター[2灯管]」

千石のモノづくりを支える巨匠と若手のシナジー

関係性が物語る「千石の強さ」

新しい価値を創造する製品はどのようにして生まれるのか。そこには、数十年にわたりモノづくりの最前線でこのテーマに向き合い続けてきたベテランと、一から十まで全力で取り組みひたむきに品質向上を追求し続ける若手の姿、そしてその融合がもたらす大きなエネルギーがあります。

「新しいものを考えることも、手を動かしてつくることも、何もないところから生み出していくから楽しいんだよ」「だから課題に対しても自然と手が動き続けてしまうんですよね」そう言って笑い合える関係性は、互いへのリスペクトや信頼だけでなく、さらなる成長へとつながる刺激にもなっています。

尊敬のまなざしでベテランの背中を追いかけながらも、いつしか本気でモノづくりを楽しむ同志として力を合わせていたり。モノづくりを通して交わるふたりが千石の強さを物語っているように感じさせます。

何か新しいものを、よりユーザーに喜んでいただけるものを目指して、常に前へ進み続けるために―。

まだ、どこにもないものをつくりたい

業界初の「電動・縦横ローテーション」に挑む

「他社にない新しいメリットのある電気暖房機をつくりたい。」そのひと声から始まったプロジェクトでした。株式会社千石の特許技術である0.2秒で立ち上がる遠赤グラファイトヒーターをさらに進化させた「グラファイトeヒーター」を搭載するとともに、目玉となったのが、業界初の「電動・縦横ローテーション」機能の開発です。

ワンタッチ操作で、ヒーターの向きを縦と横に切り替えて使うことができるというもの。縦向きに使えば、少人数向けにスポット的に暖められて、足先から肩まで暖かさを感じることができ、横向きに使えば、多人数向けに広範囲を瞬時に暖めることができます。他社でも縦横にヒーターの向きを切り替えられる製品はありましたが、使う人が手で動かして向きを変える必要がありました。この「向きを変える」という動作を、手動ではなく電動でできるようになれば、より使いやすくなるのではないか。より快適で、より安全に、さらに幅広いシーンで電気暖房機を活用してもらえるのではないかと考えたのです。

安全性、耐久性、そして「品」

では、どのようにして動かすのか。そこにはいくつもの課題が立ちはだかりました。電動で動かす仕組み自体の開発はもちろん、動かすスピードを決めるのにも苦労しました。安全性や耐久性だけでなく、「その動きに品があるか」というのにもこだわったからです。使用するモーターや歯車の組み合わせもこの思考に基づいて吟味し、試作とディスカッションを重ねて約10秒で動かすのがベストだという答えに辿り着きました。

そして、「止め方」。動きがぴしっと止まって、水平垂直であること。「これにはものすごく苦戦しました。まず手試作して上手くいきそうだと思っても、実際に金型をつくって試作してみたら動きが全く違ったり、きちっと水平垂直に止まらなかったり。開発側としてはここはものすごくこだわっているところでもあるので、完成して販売するようになってからも細かな改善を続けています。使う部品を変えたり、基板にセンサーを取り付けて水平になったらセンサーが反応して止まるようにしたり。よりぴしっと美しく止まるように、まだまだ追求しつづけていきたいと思います。(青山/開発を担当)

改善に次ぐ改善、日々の積み重ねで道はひらける

創造も進化も、一朝一夕ではできない

広い範囲を暖められるようにということで、「首振り」機能も搭載しました。首振りは昔からいろいろな機種で使われている機能ですが、実は使用するうちに中の電線が切れてしまうという事象が起きてしまうことがあります。新しい製品をつくるにあたって、何とかこの課題を克服したいと思いました。しかしながら、この首振りでの断線は、原因も断線の仕方も製品ごとにそれぞれ違うというやっかいな課題。一口に首振りといっても開発担当者によって作り方が全然違ったり、断線の事象も首振り時にある一部の箇所だけが擦れて中の線が切れてしまったり、電源コードが引っ張られてそこから切れてしまったりなど実に様々…。

そのため、「この機種ではこういう事象が起きたからこうしてみよう」など過去のたくさんの事例を踏まえながら、部品の素材を変えたり、本体のサイズをコンパクトにするなど細部から全体まで多岐にわたる調整を行うことで断線問題を克服することができました。でもこれは、今回の取り組みだけでなく、これまでのいろいろな積み重ねがあってのもの。新しいものをつくるのも、より良いものに進化させていくのも、誰か一人や一朝一夕でできるものではありません。その象徴ともいえる開発となりました。

千石では、お客さま窓口としてコールセンターを自社内に設けています。さらに言えば、企画、開発、品質保証部と一緒に同じフロアの中で席を並べているため、お客さまからの声は、すぐに、細かな内容まで、開発部門の耳に届きます。

断線問題の改善も、お客さまの声がきっかけとなりました。「量産する製品は、上手く組み立てても、中にはバラつきが出てしまうと言われているが、それを、誰が組んでも上手くいく、何の問題もないようにしなければならない。そんなふうに考えていると、あの製品にはあの機構(仕組み)を使っていたな、こういうやり方もあったな、という具合に、頭の中にいろいろとアイデアが浮かんでくるんです

普段から目にするものに対してどんな仕組みになっているのかなと疑問を持って見るようにしていると、困った時にそれがヒントになる。常にそういう目を持っていることが、課題の解決や、次の新しい企画や開発につながっていくのです。(杉浦/開発を担当)

新しい価値創造は、モノづくりの醍醐味であり使命でもある

新しい機構を、品質アップにつなげたい

「新しいものをつくる時は、必ず何か新しい機構を入れたい。それを品質アップにつなげたい、というのを念頭に置いて今までモノづくりをしてきました。(杉浦)」ユーザーにとってより良いものを、何か新しい価値を感じられるものを追求し続けることが、モノづくりの醍醐味であり、使命でもあると思うのです。課題や市場からのリクエストにどう向き合うか、いかに行動を重ねるか。それを日々のベースとし、改善に次ぐ改善や、どこにもない新機能の開発に取り組んでいく。「新しいカタチで新しい機構をつくる時が、一番楽しい。試行錯誤を繰り返してもなかなか上手くいかないことも多いですが、効果が出るとそれまでの苦労も吹き飛びます。それも含めて楽しいと思えるから、自然と手が動いていくのかなと思います。(青山)

進化するモノづくりの舞台裏にあるもの

「手試作」と「100%の情報伝達」の大切さ

常に前に進み続ける千石のモノづくりの現場には、それを支える一人ひとりの存在と、お互いへの信頼や連携が欠かせません。今回この製品開発に携わった杉浦と青山の会話にもそれがあふれていました。

青山:「手試作の鬼」と呼ばれる杉浦さんは、何もないところから、自分の手と鉄の板だけで、次につくろうとしているもののおおよその形を作るのが本当にすごい!一緒にモノづくりをしていて日々勉強になることばかりです。困った時や行き詰った時には、すぐに「こうしたらどうや」「じゃああれでやってみるか」などと手を差し伸べてくれて、モノづくりの神様であり、父親のような存在でもありますね。

杉浦:もう何十年もモノづくりをしてきたけれど、私にとっては毎日が図画工作の時間のような感覚。頭の中にあるアイデアを実際に形にしたらどうなるのか、自分の目で確認したいから手試作は大事にしたい。今は3Dプリンタを使えば樹脂部品の試作もできるし、あとは鉄板部品だから、いくらでも手試作は可能だと私は思うよ。何もないところからものをつくっていくんだから、考えることも、手を動かしてつくることも、それが楽しいじゃない!

青山:そうですね!でも、その図画工作のあとが大変なんですけどね(笑)。実際に図面を起こして、部品表を作って、工場へ製造・組立の指示資料を出さないと商品は完成しませんから。

杉浦:そしてその工場でどんなふうに製造・組立されていくかが、最終的に商品としての質にもつながってくる。これまでは海外工場であっても現場に行って直接指導したり、量産するまで現地で確認したりができていたけど、今は状況的に難しくなってしまった。きちっとした商品をつくるためには、いかに間違いのない情報を伝達するかが大事。量産工程を担当する工場スタッフに100%伝わっているか、そのあたりをこれまで以上に追求していかないといけない。そうすればもっといいモノづくりができるから。

一人でも多くの方にアラジンのファンになっていただけるように

手をかけて時間をかけて開発をしても、商品化できるのはほんの一握り。その商品の中でも1割がヒットすれば大成功というような世界です。だから、これだけ多くの方にアラジンをご愛顧いただけていることは本当に有難いことだと感じています。「お客さまの中には、新しいものが出るたびに購入してくださるという方もいらっしゃって。そんな方のためにも、いいものをつくり続けないといけないと思うのです。1つでも良くないものを出してしまったら、アラジンブランドへの信頼やお客さまの気持ちを踏みにじることになる。アラジンファンに喜んでいただけるものをつくりたい、一人でも多くの方がアラジンファンになってくれたらという想いで、日々モノづくりを楽しみ、挑み続けています。(杉浦)

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

株式会社千石(開発部・顧問)

杉浦 義和

株式会社千石(開発部・主任)

青山 陽平

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