2022/01/31Person
困難を極めた、新しいアラジンのカタチ「ポータブルガスストーブ」
100年愛されてきた「伝統のフォルム」を継承するために
「丸み」との戦い
アラジンブランドの原点であり、完成されたフォルムと性能で100年もの間ほとんど姿を変えることなく世界で愛されてきた「ブルーフレーム」。その伝統の姿を継承しながら、どこででも使えるポータブルタイプとなるよう、燃料は石油からガス(カセットボンベ)に変更し、サイズもよりコンパクトにして、より親しみやすい“新しいカタチ”にできないだろうかというこのプロジェクトは、とにかく試練の連続でした。
中でも特に苦戦したのは、伝統のフォルムの命である「丸み」へのこだわり。サイズをコンパクトにすることでブルーフレームとはデザインの比率も変わるし、カセットボンベが収まるようにするにはこれまでになかった台座の厚みが必要になる。「もっとRをつけて丸みを持たせたほうがブルーフレームの特徴が出るんじゃないか?」「いや、何かしっくりこない…」「そしたらこんな感じは?」「うーん…」そんなやりとりは、終わりのない問答のように…。
「理想」と「生産の安定性」をいかに両立するか?
丸みのある形状のパーツを生産するには、大きな金型が必要になりコストも高くなる。さらに、成形するためのプレス加工で割れてしまう可能性も高くなる。「商品としてお客さまにお届けするには、量産できないと意味がないんです。後工程をいかに減らすか、生産の安定性をいかに実現するか。だからこの丸みを帯びた部分をデザインするのはかなり苦労しました。(伊藤/開発を担当)」デザイン、コスト、生産の安定性まで含めて、理想を追求しながらもどう折り合いをつけていくか。企画、設計、製造とでアイデアを出し合い、議論を重ね、金型試作にも最新鋭の設備を活用して新たなトライをしたり、それぞれの工程での数えきれないほどの調整を経て、このポータブルガスストーブの丸みのあるボディは誕生したのです。
思いもよらない「安全装置の開発」
新しい世界は、挑戦の先にしかない
品質を追求しながらコストを抑える工夫もする。そのためにできることはすべて試してみる。それも千石のモノづくりにおいては日常的なことです。ポータブルガスストーブには4つの安全装置が付いているのですが、当初予定していた安全装置の中には他社製のものもありましたので、自社生産することでコスト削減につなげられないかという話が持ちあがりました。
製品転倒時に消火させる機構の検討に数ヶ月を費やして内製化の機構を開発し、コスト面はクリアしたものの、部品点数が増え、各部品のばらつきを踏まえた品質面での懸念が拭えず、最終的に実績のある他社製の安全装置を採用することになりました。
コスト削減以外では、酸欠状態になると自動で火が消えるようにする不完全燃焼防止装置の開発では、酸素濃度を測りながら様々な条件でテストを繰り返し、温度センサーや消火装置の取り付け位置にミリ単位で調整を実施。厳しい基準をクリアするためには、こうしたテスト・調整を徹底的に重ねていかなければなりません。
部分的なコストや掛けた時間よりも、一番重要なのは安全性。
様々な協議の末、この製品の上記機構には他社製の装置がベストであると判断しました。モノづくりの現場では、どんなに手をかけて取り組んだとしてもそれがすべてカタチになるわけではありません。それでも新しい世界は挑戦の先にしかない。より良いモノづくりを目指して挑戦し続けることで、私たちにしかできない価値提供を追求していきたいと思っています。
理想の追求は、海を越えてでも成し遂げる
国をまたいだイレギュラー対応を支えたチーム力
いよいよ量産に入るという段階で、生産拠点を日本から中国の自社工場へすべて移すことになり、これがまた新たな試練を生みました。こだわり抜いて開発してきた製品だからこそ、一人でも多くのお客さまに使っていただきたい。そのためには量産時のコスト削減も追求する。
千石では、日本、中国、フィリピンに構える複数の自社工場の中から、条件に合わせて製品ごとに最適な生産拠点を見極めて運用することができるため、今回のプロダクトでは中国拠点での量産がコストコントロールに最適だという選択に至りました。
普段から中国拠点と連携しながらモノづくりを行っているので移行自体はスムーズでした。でも金型の部品だけは、中国の工場設備にあわせて一から作り直さなければなりませんでした。このままでは販売先への納期に間に合わない…。そこで、最初は日本で部品をつくって中国へ送り出すことに。現地での新たな金型製作を急ぎながらも、国をまたいだ手続きや調整が必要となる数々のイレギュラーをいろいろな部署が総動員で対応にあたりこのピンチを乗り越えることができました。
一筋縄ではいかなかったカラーリング
ポータブルガスストーブでは、「より親しみやすく」というテーマから、これまでのアラジン製品のクラシカルな雰囲気とは異なる遊び心のあるポップなカラー展開をすることにしました。選んだのはレッドとイエロー。この着色にも頭を悩まされました。部位によって素材が違うため、色の出方が揃わなかったのです。上部のホーロー、土台の粉体塗装、そして樹脂。
まず、この3つの異なる素材を同じ色にするためには、素材ごとに違った塗料で違う配合をしないといけません。さらに、このレッドとイエローの色味にもそれぞれ細かなこだわりが。微妙な色味のニュアンスをはじめ、求めている通りの色を出すために、中国のローカルメーカーに3~4ヶ月通って入念に調整していきました。新しいアラジン製品を通じて、また新たなライフスタイルを楽しんでいただきたいという想いは、カラーリングにも表れています。
モノづくりの困難の先にあるもの
ブランドの認知度UPは、喜びと責任感に
様々なモノづくりに携わっている千石の中でも、この製品はかなりの難産でした。丸みのデザイン設計、安全装置の開発と選択、生産拠点の変更、カラーリングの調整、その他にもいくつもの大きな試練がありました。思うようにいかないことだらけだったとも言えます。「正直心が折れそうになることもたくさんあります。でも、そうやって生み出した製品が店頭に並んで、それをお客さまが眺めている姿を見ると、本当に嬉しい。アラジンというブランドの認知度が上がるということは、使用者が増えるということ。たくさんの方により良く使っていただけるように、もっともっと磨きをかけていいものをつくっていかなければと気が引き締まります。(笹倉/開発を担当)」
妥協点を上げていくという視点
アイデア段階ではわからないこともあるし、図面から現物になって受ける印象が変わることもある。お金をかければできることもあれば、どうしても実現できないこともある。それをいかに各部門でベストを追求し掛け合わせていけるかも大事だけれど、最良の妥協点を見つけることも大事。その妥協点をどれだけ上げられるか。そういうすり合わせによって、いかにニーズに応えられるか。それが千石のモノづくりには貫かれています。企画、設計、品質保証、コールセンターが1フロアに集まっていることですぐに他部署とコミュニケーションが取れて細かな調整ができたり、一貫生産ができる設備・体制が整っていることでのスピード感は、私たちの最大の強みです。本当にいいもの、新しい価値を創造する製品を生み出していくために力を合わせていきたいと思います。(伊藤/開発を担当)
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
株式会社千石(開発部・主任)
笹倉 和人
株式会社千石(企画本部・商品戦略課)
伊藤 教貴